#椅子・スツール

2026年06月17日

TAMTAM 発明、忘却、再発見。そして今、私たちが伝え続ける理由。

世界には数え切れないほどの椅子があります。イームズ、パントン、ヤコブセン、ピエール・ポラン。
誰もが知る名作があり、誰もが憧れるデザインがあります。

しかし私たちシンワショップが10年以上にわたり伝え続けているTAMTAMは、そうした一般的なデザインヒストリーとは少し違う場所に存在しています。なぜならTAMTAMは、最初から名作になるために生まれた椅子ではなかったからです。
高級家具でもなく、限定生産でもない。著名な建築家のために作られた作品でもない。むしろその逆でした。安く、軽く、丈夫で、誰でも買える。誰でも使える。そんな極めて民主的な思想から生まれたプロダクトでした。しかし、その小さなスツールは半世紀以上の時間をかけて世界中へ広がり、ギネスブックに掲載され、美術館に収蔵され、今なお作られ続けています。その背景には、一人の発明家の物語があります。

第一章 アンリ・マソネという発明家

1948年。フランス東部オヨナ地方。プラスチック産業で知られるこの地域で、アンリ・マソネはSTAMP社を設立しました。STAMPとはSociete de Transformation des Matieres Plastiques、つまり「プラスチック加工会社」です。当時のSTAMPは家具メーカーではありませんでした。家庭用品・工業用樹脂製品・収納ボックス・工業部材、そうした製品を作るメーカーでした。

しかしアンリ・マソネは単なる工場経営者ではありませんでした。彼は技術者であり、発明家でした。市場が欲しがるものを作るのではなく、まず技術を生み出し、その技術で何ができるかを考える。後年の資料には「マーケティングは技術の後を追う」という言葉が残されています。それはまさにアンリ・マソネその人を表していました。

Henry Massonnet

第二章 TAMTAM誕生

1968年。営業責任者ミシェル・シケが北フランスでオーストラリア由来のスツールを見つけます。二つの中空パーツを組み合わせる単純な構造。アンリ・マソネはそこに可能性を見出しました。STAMP独自の成形技術と組み合わせることで、軽量で、丈夫で、大量生産可能な製品へ進化させたのです。

価格は26フラン。当時としても非常に安価でした。しかし安っぽいものではありませんでした。誰でも買える価格でありながら、優れた機能性と造形美を持っていたのです。

第三章 ブリジッド・バルドーと大ヒット

当初TAMTAMは釣り用スツールとして販売されました。しかし運命を変えたのはフランスの国民的スター、ブリジッド・バルドーでした。彼女の自宅インテリアにTAMTAMが写り込んだことで、フランス中の人々が存在を知ります。広告ではなく、本当に使われていたのです。人々はそこに憧れました。リビング、寝室、テラス、子供部屋。TAMTAMは単なるスツールからライフスタイルの象徴へ変わっていきました。

第四章 発明が文化になる

1970年代。TAMTAMは社会現象になります。300万脚、400万脚、、1986年には700万脚。世界中で販売されました。さらに1983年には「Le Livre Guinness des Inventions(ギネス発明百科事典)」にも掲載されます。ここで興味深いのは、家具としてではなく発明として紹介されていることです。私たちはこの事実がとても好きです。TAMTAMは椅子でありながら、発明品でもあったのです。

第五章 Psycho-Décoが語る価値

フランスのインテリア誌Psycho-Décoには有名なイラストがあります。蚤の市でオレンジ色のTAMTAMを見つけた家族。そこにはこんな趣旨の言葉が添えられています。「5フラン?このスツールが5フラン?その価値を知らずに売っているなら申し訳ないくらいだ」私たちはこの言葉にTAMTAMの本質を見る気がします。高級家具ではない。しかし安物でもない。価格を超える価値がある。それが本当のデザインなのではないでしょうか。

第六章 TAMTAMだけではなかった

多くの人はSTAMP=TAMTAMと思っていますが、実際には違います。STAMPは「BOSTON」「TANGO」「MAMBO」「CHARLESTON」など数多くの家具シリーズを開発していました。
さらにピエール・ポランとも関係を持ち、フランスデザイン界において重要な役割を果たしていました。ポンピドゥーセンターによる調査、JANUS賞、様々な資料を読み解くと、アンリ・マソネは単なる発明家ではなく、「デザインを産業化した人物」だったことが見えてきます。

第七章 もうひとつの革命 MONOBLOC

私たちはTAMTAMを調べる中で、さらに驚く事実に出会いました。アンリ・マソネは、世界で最も普及した椅子の発明者の一人でもあったのです。
“MONOBLOC”は誰もが見たことのある白いプラスチックチェアです。

2017年。ドイツのVitra Design Museumは「MONOBLOC – A Chair for the World」という展覧会を開催しました。世界中のメディアが取り上げ、賛否両論を巻き起こしました。なぜあの安価なプラスチック椅子が美術館に展示されるのか。Vitraは知っていました。MONOBLOCこそ20世紀最大級のデザイン革命だったことを。

第八章 世界のデザイナーたちの評価

MONOBLOC展では世界のトップデザイナー達がコメントを寄せています。非常に興味深い内容でした。

ミケーレ・デ・ルッキは「この椅子は嫌いだ」と言います。しかし嫌いなのに無視できない。それほど巨大な存在だったのです。
ヴェルナー・パントンは「視覚的には災害だ」と言いながら、「発想そのものは天才的だ」と評価します。世界初の一体成形チェアを作ったパントンだからこそ、その革新性を理解していたのでしょう。
ディーター・ラムスは「もっと良くできるかもしれない。しかし価格を上げてはいけない」と語ります。これはまさにグッドデザインの本質です。
コンスタンチン・グルチッチは「他の素材で同じ数を作れるのか」と問いかけます。答えはほぼ不可能です。
そして大英博物館のガレス・ウィリアムズは、「最小で最大を実現した」と評しています。

私たちはこれらの言葉を読みながら、彼らが語っているのはMONOBLOCだけではなく、TAMTAMでもあると感じました。

第九章 忘却と再発見

しかしどんな名作にも冬の時代があります。1980年代以降、TAMTAMはあまりにも普及し過ぎました。当たり前の存在になったのです。そして人々は忘れました。ところが2002年、サーシャ・コーヘンがその価値を再発見します。Branex Designを設立し、TAMTAMを現代へ蘇らせました。「POP」「KRYSTAL」「CHROME」「TAM LIGHT」「TAM BAR」

彼は単なる復刻ではなく、TAMTAMという世界観を再構築したのです。

第十章 STAMPへの帰還

2014年、ブランドは再びSTAMPへ戻ります。2015年にはSTAMP Editionが誕生。そこには大きく「100% MADE IN FRANCE」と書かれていました。そして「TAMTAM ORIGINAL」。
1968年から同じ工場で作り続けるという誇り。現在の認証ステッカーにも、その精神は受け継がれています。

第十一章 私たちが伝えたいこと

私たちは今、デザインプロダクトのインフレの時代に生きています。毎日のように新しい家具が発表され、新しいブランドが生まれています。一方で「プラスチックは悪」という考え方も広がっています。もちろん私たちも、使い捨てられるプラスチックや、大量消費を前提とした製品を肯定するつもりはありません。
しかし、もしプラスチックという素材が存在しなかったら、20世紀以降のデザイン史はまったく違うものになっていたはずです。イームズも、パントンも、ジョエ・コロンボも、そしてアンリ・マソネも。存在していなかったかもしれません。

1968年から続く歴史を持ち、親から子へ受け継がれ、半世紀以上使われ続けているデザインプロダクトです。
私たちは長年デザイン家具を扱ってきました。高価な家具も、希少な家具もあります。しかし私たちが本当に伝えたいのは値段ではなく、デザインの本質です。なぜこの形なのか。なぜ50年以上残っているのか。なぜ世界中の人が今も使い続けているのか。そうした背景にこそ、本当の価値があると思っています。

終章 

アンリ・マソネが発明した。
ブリジッド・バルドーが広めた。
700万脚が世界へ広がった。
サーシャ・コーヘンが再発見した。
STAMPが守り続けた。

そして今、私たちシンワショップが日本で伝えている。

TAMTAMはただのスツールではありません。発明であり、文化であり、フランスの歴史であり、デザインの民主化そのものです。若い人にも、子供たちにも。初めてデザインに興味を持つ人にも。まずは気軽に使ってほしい。椅子やサイドテーブル、オブジェとして。生活の中で自由に楽しんでほしい。そしてその先に、デザインの面白さや奥深さを知ってもらえたら嬉しい。

私たちはこれからも、デザイナーズファニチャーの入り口として、TAMTAMを届け続けます。デザインは特別なものではありません。日常の中にあるものです。その楽しさを知るきっかけとして、これからもTAMTAMを思い切り使い続けていただければ幸いです。

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ShinwaShop編集部

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